金融庁は2025年6月、TOB(株式公開買い付け)を巡るインサイダー取引への対応を強化する方針を打ち出しました。
違反時に科される「課徴金」の額を17年ぶりに見直すというものです。
今回は、このニュースの背景や今後の影響について、専門的な視点からもわかりやすく解説します。
そもそも「TOB」と「インサイダー取引」って何?
TOB(株式公開買い付け)とは、ある企業が別の企業の株を市場を通さずに一定数まとめて買い取る方法のことです。
たとえば、「A社がB社の株を市場価格より高い値段でまとめ買いする」といったケースです。
この時、TOBの情報が公表される前に知った人が株を買ってしまうと、大きな利益が出る可能性があります。
ここで問題になるのが、インサイダー取引です。
これは、まだ一般の投資家が知らない重要な情報(例えば「B社がTOBされる」という話)を知って、その情報を元に株の売買をすることを指します。
言わば「他の人が知らないゴールを知っていて、そこに向かって先に走り出すズル」のようなものです。
なぜ課徴金を見直すの?
これまで日本の課徴金(罰金のようなもの)は、不正で得た利益と同じくらいの金額を取る仕組みでした。
例えば、ある人がTOB情報を使って株で720万円儲けたとすると、その人に科される課徴金は800万円程度。
つまり「儲けた分を返してもらう」程度にとどまっていたのです。
しかし、これでは「バレなければ得をする」「バレても儲けが消えるだけで損はしない」という状態。これを変えようというのが今回の見直しの狙いです。
ちなみにアメリカでは、不正で得た利益の最大3倍の罰金を請求される可能性があります。
フランスでは、利益の最大10倍や1億ユーロ(約170億円超)の罰金が課されることも。金融庁は、こうした海外の厳しいルールに近づける方向です。
新しい課徴金はどうなる?
新しい仕組みでは、不正に得た利益に一定の係数(倍率)を掛ける案などが検討されています。
「TOBでどれだけ株価が上がったのか」をデータで計算し、その上で利益に倍率をかけて課徴金を決める仕組みです。
つまり、単に「儲けた分を返す」だけでなく、もっと大きな負担を強いてインサイダー取引の抑止力を高めようというわけです。
なぜ今この見直し?
近年、日本では企業のガバナンス改革(企業の健全な経営を進める動き)が進んでおり、TOBの件数が急増しています。
実際、2024年にはTOBが過去2番目に多い100件に達し、その半分以上でインサイダー取引が問題となりました。
2024年秋に起きた金融庁や東証職員が関わったTOBインサイダー事件では、内部の情報が漏れていたことが発覚。
こうした不正を防ぐために、金融庁は課徴金を引き上げ、ルール違反を「割に合わないもの」に変えようとしています。
今後の流れと課題
金融庁は、月内に金融審議会で議論を始め、2026年の通常国会で法律改正を目指す方針です。
新たな課徴金ルールは、早ければ2026年中に適用される見込みです。
ただし、課徴金をどこまで引き上げられるかは憲法上の「二重処罰の禁止」との兼ね合いも議論になります。
課徴金は刑事罰と別の仕組みですが、過剰な負担にならないよう慎重な調整が求められます。
まとめ|これからの投資環境にどう影響する?
今回の見直しは、日本の金融市場をより公正にし、投資家が安心して株式市場に参加できる環境づくりの一歩です。
今後、TOBや大型買収のニュースに注目が集まる中で、ルール違反には厳しく、正しい情報で勝負する「フェアな市場」がより求められます。
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