統合報告書の発行社数がこの4年で倍増し、2024年は過去最多を更新しました。
財務情報と非財務情報を組み合わせたこの報告書が、なぜいま多くの企業にとって重要なツールとなっているのか?
専門家の知見を交えながら、その背景と効果、そして今後の課題を解説します。
◆ 統合報告書の発行、企業価値向上の“カギ”に
「統合報告書」とは、企業が財務情報(売上・利益・資本政策など)に加え、ESG(環境・社会・ガバナンス)などの非財務情報を総合的に開示するレポートです。
TAKARA&COMPANY傘下の宝印刷D&IR研究所によると、2024年の発行企業数は1087社で、4年前(約540社)の2倍に増加。
しまむらなども昨年初めて発行し、非財務領域の情報開示に踏み出しました。
◆ 投資家が注目する「未来の物語」
証券会社や機関投資家の声から見えてくるのは、統合報告書の最大の強みは**“未来”を語れること**です。
- 有価証券報告書や決算短信は、過去の実績を示すもの。
- 一方、統合報告書では、中長期的な成長戦略や、経営者のビジョンを伝えることができる。
コモンズ投信の伊井哲朗社長は「経営トップのメッセージや価値創造ストーリーを読み込むことで、投資の判断に役立てている」と語ります。
◆ 投資家との“対話の扉”を開く役割も
統合報告書は単なる「説明資料」にとどまりません。
例えば伊藤忠商事は、多岐にわたるビジネスモデルを丁寧に開示することで株価純資産倍率(PBR)の向上に貢献。
海外投資家からの面談依頼や株式取得にもつながった実例があるといいます。
味の素は2023年から個人投資家向けに報告書要点の解説も開始。
「中長期志向の投資家を呼び込むことで資本コスト低下につながる」(IR室)とその効果を語ります。
◆ 学術研究でも「株価上昇・資本コスト低下」に効果
日本政策投資銀行(DBJ)の研究では、非財務情報を積極的に開示する企業は株価の下支え効果があり、資本コストも低下傾向にあるという結果が出ています。
実際に、2021年に統合報告書を発行した628社の株価は、2025年5月時点でTOPIXを9ポイント、日経平均を18ポイント上回るパフォーマンスを記録しています(日本経済新聞調べ)。
◆ ただし課題も。情報過多・読みづらさへの対応が急務
一方で、企業側には「出せばいい、増やせばいい」という単純な話ではありません。
大和証券によると、平均ページ数は124ページと過去5年で約2割増加。
読み手にとっては“情報過多”と感じるケースも増えています。
✔ ケーススタディ:日立製作所の取り組み
日立は2年間でページ数を半分以下に削減。IR担当者は「数字を交えながらストーリーを簡潔に伝えることが最優先」と明言し、読みやすさと投資家との対話を両立させる工夫を重視しています。
◆ 【まとめ】統合報告書は「共感を生む経営戦略書」へ
統合報告書は、もはや「企業紹介パンフレット」ではありません。
・未来を語ることで投資家の信頼を得る
・非財務情報を通じて差別化する
・株主との対話を進め、資本コストを下げる
これからの企業経営にとって、統合報告書は“企業の志”を見える化する最前線のツールとなるでしょう。
読者である皆さんが企業を見る目も、「財務だけではなく、どんな未来を描いているか」に目を向けることが、良い企業と出会うヒントになるかもしれません。
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